コラム

生活保護について

コロナ渦による経済的打撃や物価上昇なども相まり、私たちを取り巻く生活状況は大きな変化を余儀なくされました。
私たちが生活において困難を抱えてしまった時に、頼れる救済制度があることをご存じでしょうか。
最終的なセーフティーネットとして「生活保護制度」が挙げられますが、具体的にどのような制度なのかは知らない、という人も少なくないでしょう。
ここではいざという時に知っておくと役に立つ「生活保護制度」について、詳しく解説をしていきます。

生活保護法の成り立ち
生活保護法の前進にあたる「旧生活保護法」が制定されたのは、戦後間もない1946年のことです。
敗戦直後の日本は、アジア各地からの引揚者や失業者で溢れ、深刻な食糧難や、戦災による極度の住宅不足に直面していました。
さらに、急激なインフレーションに見舞われ、生活困窮者が激増していました。
また、劣悪な衛生環境による伝染病の蔓延も課題となっており、これらの困窮者への生活援護背策が急務となっていました。
また、同時期には日本国憲法が制定され、GHQの指示のもと社会福祉や社会保障に対する基本的な理念が構築されていきます。
このような時代背景において「旧生活保護法」は制定され、急務とされていた生活援護施策が打ち出されるようになったのです。
「旧生活保護法」では無差別平等の保護が定められ、要保護者に対しては国家責任による保護を行うことが明文化されました。
しかしその一方で、勤労意欲のない者や素行不良の者などには保護を行わない、とされる欠格事項が設けられ、保護の対象が限られてしまうという重大な欠点があったのです。
さらに、旧生活保護法では申請主義が取られておらず、市町村長が必要だと認めた場合にのみ生活保護制度が適用されるなどの保護請求権がない問題や、保護を必要とする際に拒否された場合、保護内容に不満を持った際の「不服申し立て権」が明記されていないことなど、解消すべき多くの課題が残された状態でした。
そのため1950年になると、旧生活保護法が全面改正された「新生活保護法」が制定されます。
新生活保護法では、この法律が日本国憲法第25条の生存権に基づくものであることが明文化され、従来の欠格事項を撤廃したうえで、無差別平等の保護が定められました。
また、大きな課題となっていた保護受給権が認められ、不服申し立て制度と共に法定化されたのです。
さらに、旧生活保護法で定められていた生活扶助、医療、助産、生業扶助、葬祭扶助の5つの保護が、新たに生活扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助、教育扶助、住宅扶助の7種類に変更されます。
2000年の法改正では新たに介護扶助が加わり、現在では8種類の扶助を受けることが出来るようになりました。
このように、戦後の混乱期に制定された旧生活保護法が時代の流れに則した形で幾度も改正され、現行の新生活保護法が制定されるに至った経緯があります。
今後も生活保護制度には、時代の流れや世の中のニーズに即した支援内容の拡充が求められていくと言えるでしょう。
生活保護法の理念
生活保護法とは、「国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする(生活保護法第一条)」法律であり、日本国憲法第25条の「生存権」を理念としています。
日本国憲法第25条では、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文が明記されおり、生活保護制度ではこの理念の達成が目的とされています。
生活保護制度の利用について
生活保護の申請は国民の権利なので、制度の利用を必要とする人は誰でも申請することができます。
しかし、生活保護法の基本的な考え方として、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる(生活保護法第4条第1項)」とあるように、受給するには一定の要件を満たすことが必要です。
生活保護の要件
生活保護は世帯を単位としてその要否や程度が決められます。
そのため、受給要件として、世帯員全員が以下の要件を満たすことが前提とされています。

① 資産の活用…預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却するなどし、生活費に充てることが必要です。
利用しうる資産を活用するのは保護の要件ですが、居住用の持ち家については保有が認められる場合があります。
また、所有している車や店舗、事業を継続するうえで必要とされる機材など、相談者の状況により例外と見なされるケースもあるため、不安に思うことがある際には担当窓口で相談するのがお勧めです。

② 能力の活用…働くことが可能な方は、その能力に応じて働くことが必要です。
しかし、現状において十分な求職活動を行うのが難しいと認められる場合は、この要件についていったん判断されないまま、保護を受けることができる場合があります。

③ あらゆるものの活用…年金や手当など他の制度で給付が受けられる場合には、まずそれらの活用をすることが必要です。

④ 扶養義務者の扶養…親族等から援助を受けられる場合には、援助を受ける必要があります。

上記の前提を踏まえたうえで、世帯収入と厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に保護が適用される仕組みです。
支給される保護費
厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。
尚、収入とは、世帯全体が得る就労による収入、各種年金や手当等の社会保険給付、親族からの仕送り、その他貯金、保険金、財産を処分して得た収入などです。
最低生活費は年齢や健康状態など世帯の実際の需要に応じ、最低生活に必要な費用が扶助ごとに金額で定められています。
最低生活費の算出方法は以下の通りです。
【最低生活費=1類費+2類費+各種加算+その他の扶助費】
・1類費(個人別・年齢別)
 ⇒飲食費や被服費等個人的に消費する生活費

・2類費(世帯人員別)
 ⇒電気代等の光熱水費等

・各種加算
 ⇒障害、母子加算、介護保険料等

・その他の扶助費
 ⇒住宅費、教育費、介護費、医療費等

保護の種類と適用範囲
生活保護制度が適用されると、以下のように生活において必要とされる各種費用への扶助が支給されます。

① 生活扶助…衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの
基準額は、食費などの個人的費用、光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出されます。
  また、特定の世帯には加算があります。(母子加算等)

② 住宅扶助…家賃、地代、家屋の補修等に必要な費用
定められた範囲内で実費が支給されます。

③ 教育扶助…義務教育に必要な教科書、その他の学用品等
定められた基準額が支給されます。

④ 医療扶助…診療、薬剤又は治療材料、医学的処置、手術その他の治療等
費用は直接医療機関へ支払われます(本人の負担はありません)。
尚、生活保護法による医療扶助においては、後発医薬品の使用が原則となっています。

⑤ 介護扶助…高齢者に対する居宅介護、福祉用具、住宅改修、施設介護等
費用は直接介護事業者へ支払われます(本人の負担はありません)。

⑥出産扶助…出産に必要な経費
定められた範囲内で実費が支給されます。

⑦生業扶助…生業に必要な資金、高等学校等修学費、技能修得に必要な費用等
 定められた範囲内で実費が支給されます。

⑧葬祭扶助…葬祭に必要な経費
 定められた範囲内で実費が支給されます。
生活保護の申請の流れ
生活保護制度を利用する際には、まずはお住まいの地域にある福祉事務所の生活保護担当窓口を訪ねましょう。
窓口では事前の相談を行うとともに、生活保護制度の説明や、生活福祉資金、各種社会保障施策などの活用も含めて検討されます。
その後、生活保護の申請を行うと、保護の決定のために以下のような調査が実施されます。

・生活状況などを把握するための訪問調査
・預貯金や保険、不動産などの保有している資産の調査
・扶養義務者による扶養(仕送りなどの援助)の可否の調査
・各種年金などによる社会保障給付、就労収入などの調査
・就労の可能性の調査

生活保護の申請から決定までには2週間ほどがかかります(調査に時間がかかるなど、特別な事情がある場合には1ヶ月程かかります)。
生活保護の申請にあたって必要な書類は特にありませんが、生活保護申請後の調査において、世帯の収入・資産などの状況がわかる資料(通帳の写しや給与明細等)の提出を求められることがあります。
自治体によっては事前相談の際に、個人番号の分かるもの(マイナンバーカードや通知カード)や、世帯収入のわかるもの(年金証書や給与明細、預金通帳など)、世帯員の状況の分かるもの(健康保険証、介護保険証、障害者手帳など)、印鑑などを所持している場合、提出を求められることがあります。
ですがこれらの書類を揃えるのが困難な場合でも、生活保護を申請することは可能です。
住むところがない状況の方でも申請ができます(施設に入ることに同意するのが申請の条件ということもありません)。
生活保護制度では、どのような状況下においても、私たちが生活保護を必要とする際にはお近くの福祉事務所で相談を受けられる仕組みになっています。
生活困窮者自立支援制度の利用
生活保護は最終的なセーフティーネットとしての役割があります。
しかし、生活保護に至る前の段階において、生活に困難を抱えている方が受けられる支援制度として「生活困窮者自立支援制度」が存在します。
生活困窮者自立支援制度は、第2のセーフティーネットの拡充を目的として2015年に施行されました。
この制度では働く意思がある人を対象として、生活に困難を抱える個人に対し一時的な支援を行い、自立のサポートを図ることを目的としています。
地域の相談窓口において支援員が相談を受け、支援内容を相談者と一緒に考え、一人ひとりに合わせた支援プランを作成し、自立に向けた支援や、就労に必要な環境づくりなどの支援を行います。
生活困窮者自立支援制度で受けられる支援は以下の通りです。

・住居確保給付金の支給
生活に困難を抱え、住居を失うおそれの高い方、住居を失ってしまった方に一定期間の家賃相当額を支給する制度です(一定の資産収入等に関する要件を満たしている方が対象です)。

・就労準備支援事業
心の準備が出来ておらず、直ちに就労するのが難しい方に向けた支援です。
6ヶ月から1年の間、プログラムに沿って一般就労に向けた基礎能力を養いつつ、就労に向けたサポートや就労機会などを得ることができます。

・家計改善支援事業
相談者の早期の生活再生を支援する事業です。また、相談者が自ら家計を管理できるようにサポートします(一定の資産収入等に関する要件を満たしている方が対象です)。

・就労訓練事業
ただちに一般就労をすることが難しい方への支援です。一人ひとりに合った作業機会の提供や、個別の就労支援プログラム、就労訓練などが提供されます。

・生活困窮世帯の子どもの学習・生活支援事業
子どもに関わる学習や進学支援、日常的な生活習慣、高校進学者の中退防止に関する支援など、子どもと保護者の双方に必要な支援が受けられます。

・一時生活支援事業
住居を持たない方、またはネットカフェ等の不安定な住居形態にある方に、一定期間、宿泊場所や衣食を提供する支援です(一定の資産収入等に関する要件を満たしている方が対象です)。

生活困窮者自立支援制度は、生活保護を受給している場合には受けることができません。
生活に困難を抱えており、生活保護を受給しない場合には、生活困窮者自立支援制度の利用を検討してみると良いでしょう。
自治体により相談窓口が異なりますので、詳しくはお住まいの都道府県・市へのお問い合わせください。
●まとめ
生活保護の申請は国民の権利であり、生活保護を必要とする可能性は誰しもあります。
生活に困難を抱えてしまった際には、ためらわず早めに相談することが大切です。
相談を受ける際には、まずはお住まいの福祉事務所や自治体などへ事前に問い合わせをしておくとスムーズになるでしょう。

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