コラム

就労移行支援・就労定着支援とは

障害者総合支援法で定められた障がい福祉サービスの一つに「訓練等給付」というものがあり、その中に「就労移行支援」と「就労定着支援」があります。
以下では、障がいのある方の就労をバックアップする、就労移行支援と就労定着支援の二つについて解説をしていきます。
就労移行支援と就労定着支援は似た名前なので混同されがちですが、扱うサービスの内容は大きく異なります。

訓練等給付とは?
ところで、訓練等給付とは何でしょうか。
「障がい福祉サービスには、「自立支援給付」という制度があります。
これは利用者が自分に必要なサービスを選び、サービスの提供をする事業者と契約を結んで利用できる制度です。
自立支援給付には、「介護給付」、「訓練等給付」、「計画相談支援」「地域相談支援」「自立支援医療」「補装具」の7種類のサービスがあり、就労の支援を受ける際にはそのうちの「訓練等給付」を利用します。
訓練等給付の種類
訓練等給付で提供されるサービスは、日常生活のサポートや日常動作の訓練を行うための支援サービスと、就労のための支援を行うサービスのふたつに大きく分けられます。
訓練等給付で受けられる福祉サービスは以下の4種類です。
この中に、本コラムで取り上げる「就労移行支援」と「就労定着支援」があり、この二つの支援は他の訓練等給付の支援を補完する役割があります。
・就労継続支援A型
一般企業に雇用されることが困難であるが、雇用契約に基づく就労が可能な方が対象です。
雇用契約を結ぶ就労の機会の提供や、生産活動の機会の提供を行います。
サービス事業者と雇用契約を結ぶため最低賃金の保証があり、就労や生産活動の内容は実践的なものとなります。
・就労継続支援B型
一般企業に雇用されること、および雇用契約に基づく就労が困難である方が対象です。
就労や生産活動の機会の提供を行いますが、サービス事業者とは雇用契約を結ばないため最低賃金の保証はありません。
就労や生産活動の内容は単純作業が中心となるため、利用者一人ひとりのペースに合わせて取り組むことができます。
・就労移行支援
就労を希望する障がいのある方で、一般企業での就労が可能と見込まれる方が対象です。
一定期間就労に必要な知識や能力の向上のために必要な訓練を行います。
・就労定着支援
就労移行支援、就労継続支援、生活介護、自立訓練のいずれかを利用して、一般企業に雇用された障がいのある方が対象です。
雇用によって生じうる、さまざまな問題に関する相談や、指導、アドバイスなどの必要な支援を行います。
上記の「就労継続支援A・B型」を利用したのちに、「就労移行支援」や「就労定着支援」を利用することも可能です。
利用者は必要な就労サービスを希望する段階に合わせて選ぶことができます。
就労移行支援とは?
就労移行支援の対象者は、原則として65歳未満の一般就労等を希望している障がいのある方で、なおかつ、知識や能力の向上、実習、職場探しなどを通して、適性に合った職場への就労等が可能と見込まれる方になります。
具体的には、企業等への就労を希望している方や、技術を習得し、在宅で就労や企業を希望する方などです。
利用者は希望するサービス事業者と契約を交わし、施設へ通所することでさまざまな支援が受けられます。
就労移行支援の主なサービス内容は以下の通りです。
【主なサービス内容】
・就職活動などのサポート
・就労に必要な知識や能力の向上のために必要な訓練
・特定の資格(あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許、きゅう師免許など)を取得し、就労を希望する方への支援

就労移行支援では、支援サービスを3つの過程に分けて段階的に提供しています。
①入所後の初めの段階では、就職に必要な知識や体力、集中力などの基礎能力を身につけるための就労に向けたトレーニングが行われます。
②その次に、ビジネスマナー講習や、職場見学、職場実習などの機会があり、利用者は自分に適性のある業種や職種、どのような職場環境があっているのかを考えることができます。
③最後に、応募書類の作成や、模擬面接などを通じた面接対策などの、就職支援が行われます。

就労移行支援は就職を目指すための訓練となるため、基本的には実習や訓練作業などで発生した労働に賃金は発生しません。
訓練やサービスの内容は事業者により異なりますが、事務職で必要とされるパソコンスキルや、製造現場で役立つピッキングの技術などの、実践的な技術を学べるところもあります。
就労移行支援には利用期間が定められており、利用できるのは原則2年間です。
しかし、2年経っても就職が難しい場合には1年間の延長が可能になりますが、その場合には市町村からの承認が必要です。
もし承認が得られなくても、新たに就労移行支援を申請し直すと再び2年間利用することができるようになります(ただし、市区町村により異なる部分があります)。
就労移行支援の利用の仕方
就労移行支援を利用するにあたり、障がい支援区分は問われません。
また、障害者手帳は必要ではない場合もありますが、事業所によっては障害者手帳の所持が利用条件に含まれるところもあります。
しかし、主治医が就労継続支援の利用の必要性を認めた時には、手帳がなくても利用申請ができる場合もあるため、希望する事業所との事前の相談が必要です。
就労移行支援を利用する際の具体的な流れは以下の通りです。
【就労移行支援の利用の流れ】
①希望する就労移行支援事業所を探す
②市区町村窓口で利用申請を行い、認定調査を受ける
③受給者証の発行、事業所との契約、通所開始

①就労移行支援の事業所は、お住まいの市区町村の障害福祉担当の窓口で紹介を受けられますし、インターネットで事業所を探して直接申し込むこともできます。
②利用したい事業所を決めたら、お住まいの市区町村の障害福祉課に就労移行支援の利用の申請が必要です。
申請後は窓口の担当者による聞き取り調査と、サービス支給認定のための会議を経て支給が決まります。
また、サービスを利用するにはサービス等利用計画案の提出が必要です。
一般的には、市町村の窓口で指定特定相談支援事業者が作成しますが、自分で作成することもできます。
③就労移行支援の利用が正式に決定すると、障害福祉サービス受給者証(以下、受給者証)が発行されます。
これは障害福祉サービスを受けるために必要な許可証なので、障害者手帳とは別物です。
受給者証には氏名や住所など利用者の個人情報や、受給証の期限、支給決定期間、受けられるサービスの種類などが書かれています。
なお、受給者証には項目ごとに個別の有効期限があるため、取得後には定期的な更新を忘れないように気を付けましょう。
受給者証を事業所へ持参し、契約を行うと通所ができるようになりますが、事業所ごとに契約手順は異なる部分があるため、確認が必要です。
就労定着支援とは?
就労定着支援の対象者は、障がいのある方で、就労移行支援、就労継続支援、生活介護、自立訓練のいずれかの利用歴があり、その後の就職によって一般就労に移行した方です。
就労に伴う環境変化などにより、生活面や就業面において課題が生じている方で、なおかつ一般就労後6か月が経過している方が利用できます。
就労定着支援の事業所は、就労移行支援の事業所が兼務で運営している場合が多いのが特徴です。
就労移行支援を利用して就職した際にはそのまま同じ事業所から支援を受けることが可能ですし、異なる事業所と契約をして就労定着支援を受けることもできます。
就労定着支援の主なサービス内容は以下の通りです。
【主なサービス内容】
・利用者の就労の継続を図るために、就職先の会社や、障がい福祉サービス事業者、医療機関などとの連絡や調整を行い、就業面や生活面、健康面での支援を行う。
・就労定着支援員が利用者と勤め先の仲介となり、必要な情報の伝達や共有などを行う。
・就業に伴い、日常生活や社会生活のなかで利用者が課題に直面した際には、相談や指導、アドバイス、その他の必要な支援を行う。

利用者からの希望があれば、就労定着支援員が本人や職場の上司などとの面談を行うこともできます。
悩みや課題を一人で抱えてしまうと、解決に至らず離職に繋がってしまう場合もあるため、就労定着支援は利用者に寄り添ったきめ細かなサポートを提供しています。
就労継続支援には利用期間が定められており、利用できるのは最長3年間です。
就職後7ヶ月目から利用ができるようになり、1年ごとに支給期間の更新をする必要があります。
ただし、就労移行支援や就労継続支援A型、自立訓練などを利用して就職した場合には、就職後の6か月間はそれまで利用していた事業所から面談などのサポートを受けられます。その後、7ヶ月目から就労定着支援を受けることが可能です。

就労定着支援の利用の仕方
就労定着支援の利用方法は、就労移行支援とほぼ同じになります。
利用するにあたり、障がい支援区分は問われず、障害者手帳の所持も必須ではありません。
就労定着支援を利用する際の具体的な流れは以下の通りです。
【就労定着支援の利用の流れ】
①利用中の事業所で就労定着支援を継続して希望する、もしくは希望する就労移行支援事業所を探す
②市区町村窓口で利用申請を行い、認定調査を受ける
③受給者証の発行、事業所との契約、通所開始

①就労定着支援事業所は、就労移行支援事業所が兼務している場合が多いのが特徴です。
もし、就労移行支援事業所を利用して就職した場合、はじめの6ヶ月間は面談などによるサポートが受けられ、7ヶ月目からは同じ事業所による就労定着支援を正式に利用することができます。
また、就職後に別の就労定着支援事業者を利用することも可能です。
その場合には、お住まいの市区町村の障害福祉担当の窓口で紹介を受けたり、インターネットで直接申し込んだりすることもできます。
②上記のいずれのケースにおいても、就労定着支援を利用する際には、市区町村窓口で利用申請を行い、認定調査を受けることが必要です。
③その後、認定調査を終えた後にはサービス等利用計画案の提出を行います。
就労定着支援の利用が正式に決定すると、障害福祉サービス受給者証(以下、受給者証)が発行され、事業者との契約の後にサービスを利用できるようになります。
なお、申請手続きの流れは各自治体によっても異なりますので、事前の確認が必要です。

就労移行支援・就労定着支援にかかる費用
就労移行支援と就労定着支援の料金体系は同じ仕組みになっています。
利用者や配偶者の前年度の所得に応じて利用料が変わりますが(1割負担)、あらかじめ決められた一定額以上の負担は生じません。
具体的な利用料金の算出方法は以下の通りです。
【就労移行支援・就労定着支援の利用料金】
・生活保護世帯…負担上限月額0円

・市町村税非課税世帯…負担上限月額0円
(3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象となります)

・市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)…負担上限月額9,300円
(収入が概ね600万円以下の世帯が対象になります)
※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く(入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「上記以外」となります)

・上記以外…負担上限月額37,200円

また、所得を判断する際の世帯の範囲は以下のとおりです。
【世帯の範囲】
・18歳以上の障がいのある方(施設に入所する18、19歳を除く)
⇒障がいのある方とその配偶者

・障がいのある子ども(施設に入所する18、19歳を含む)
⇒保護者の属する住民基本台帳での世帯

●まとめ
就労移行支援と就労定着支援は、障がいのある方の就労と定着を後押しする、心強い支援サービスです。
就職に対する不安や悩みがある方は、事業所が蓄積したノウハウや、各種サポートやアドバイスも得られるので、利用してみるのがお勧めです。
さらに就職後にも、困ったことやトラブルがあれば、専門スタッフによる手厚いフォローを受けることができます。
体調面や薬の服用などに関する相談もできますので、慣れない環境で仕事を行う際には知っておくと安心できる制度と言えるでしょう。

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