コラム

ノーマライゼーションとは

「ノーマライゼーション」という言葉をご存知ですか?言葉を聞いたことがあっても、理念や具体的な施策について思い当たる方は少ないのではないでしょうか。ノーマラーゼーションとは、障がいのある人もない人も互いに助け合いながら、地域社会で自分らしく生きていける社会を目指した考えです。障害者福祉や高齢者福祉、社会福祉の領域で働く人だけでなく、地域社会の一員としてノーマラーゼーションを実現していくためにも、理念を理解し、個々人ができることから始めてみましょう。

ノーマライゼーションの理念と原理
ノーマライゼーションは、知的障害やその他の障がいを持つすべての人が地域社会や文化のなかで「ノーマル」な生活を送るために環境整備を目指すための共通用語です。ノーマライゼーションという言葉には、「標準化・正常化」、「常態化」という意味があり、「以前は特別視されていたことがあたりまえになる」という考えが含まれています。ノーマライゼーションの理念のなかには、障がいを持つ人もそうでない人もありのままで生活を共にできるよう「障がい者が変わる」のではなく、「社会が変わる」という視点があります。
ノーマライゼーションの8つの定義
ノーマライゼーションはデンマークのバンク・ミッセルセンによって提唱された言葉です。1959年にはデンマークの知的障害者の権利による法律の全文のなかで「知的障害者ができるだけノーマルな生活を送れるようにすること」と述べられています。その後、「ノーマライゼーションの育ての父」と呼ばれるスウェーデンのベイクト・ニェリヒによって8つの定義が確立されて国際的な発展へとつながっていきました。以下に、8つの定義についてそれぞれ紹介していきます。
1. 一日のノーマルなリズム
重度の知的障害や、身体的な障がいを持っていても、朝起きて、支度をしてその人にとって有意義な24時間を過ごすことを意味します。決して、障がいがあるからといって、兄弟よりも早く起きることや、職員のリズムに合わせて急いで食べ終えるということはありません。ノーマルなリズムを維持するために、介護を必要とする場合でも、その人の生活ペースと必要性が最優先に置かれます。
2. 一週間のノーマルなリズム
一週間のうちに行われる、家庭・仕事・余暇という3つの異なった側面は1つの建物内で完結することはできないという考えのもと、その人の特性に合わせた住居や社会活動、余暇時間の創出を支援の中に含むことを意味します。支援を行うものは、彼らの意思を考慮しながら、住居や教育・仕事、余暇、社会的な関係といったサービスの調整を行うことが求められます。
3. 一年間のノーマルなリズム
一年間のノーマルなリズムとは、季節の移り変わりや家族の行事だけでなく、祭日や地域の伝統行事、お祭りなどに参加することを意味します。地域行事に参加することは、少なからず社会的なスキルを必要としますが、どんな状況にあっても障がいがあるからという理由で彼らが参加する権利を排除してはなりません。
4. ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験
幼少期、児童期、青年期、成人期、老齢期においてノーマルな発達的な経験が保証されることを指します。特に障がいと向き合うことが要求される、青年期から成人期にかけての精神的なストレスは大きく、不安定なプロセスが生じがちです。大人になることへの自信を育むためにも、継続的で建設的な社会生活トレーニングのプログラムを行うことが重要となります。
5. ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
障がいを持つ人の選択や願い、希望、自己決定権が当たり前に尊重され配慮されることを意味します。周囲の人は、言葉に障がいのある人や思うように自分の考えを表現できない人に対して敏感に注意深く対応を行い、彼らの所有物に至るまで個人の意思を尊重することが大切です。
6. その文化におけるノーマルな性的関係
障がいのあるないに関わらず、社会のなかでより豊かな生活を送っていくために、異性との関係を持つことは幼少期から高齢期にかけて常に意識されるものです。また、異性とのデリケートな関係性のなかにおいて、自分とは異なる他者の違いや失敗を認めるという経験は人間的な成熟を促し、社会的な能力の向上へとつながっていきます。
7. その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利
ノーマルな生活を送るためには、ノーマルな経済水準を確保することが必要不可欠です。障がいを持つことによるハンディキャップを埋めるために法律のもとで経済的な安定を確保すると同時に、年金や各種手当など、他の人が受けている経済的な支援も平等に保証されることを意味します。
8. その地域におけるノーマルな環境形態と水準
学校や職場、グループホームやケア付き住居施設などは、一般社会で用いられる設備基準と同等のものであることを意味します。新しく施設を創設する場合には、障がいがあるからといって隔離された場所に建てるのではなく、地域のなかにごく普通に建設し、地域住民との人間関係も同時に育む必要があります。
クオリティ・オブ・ライフ(QOL)と人権
ノーマライゼーションの実現を図る上で、クオリティ・オブ・ライフ(以下QOL)を理解することは重要となります。「人生の質・生活の質」とも呼ばれるQOLは、その人を取り巻く「活動」「対人関係」「自尊心」「人生における基本的な幸福感」の4つの要素から成り立っています。ノーマライゼーションの原理においても、成長し、発達し、自己主張し自尊心や他者からの尊敬を得ながら生活することは基本的な価値観となっており、障がいを持つ人たちの社会的状況を判断する評価基準となります。また、この基本的な価値観は、国連人権宣言をはじめ、さまざまな機関で制定された人権宣言に幅広く通用する概念でもあります。
国内の状況と取り組み
ここからは、日本国内における障がい者の状況とノーマライゼーションの理念に基づいたさまざまな施策について紹介していきます。
国民の7.6%が何らかの障がいを持っている⁈
内閣府による「障害者の状況」に関する調査によると、国民の7.6%が何らかの障がいを持っていることがわかっています。具体的な数値としては以下のとおりです。
・身体障害者…436万人
・知的障害者…109万4千人
・精神障害者…419万3千人
上記の統計を、人口千人あたりの計算で見た場合、身体障害者は34人、知的障害者は9人、精神障害者は33人となります。いずれも高齢者が増加傾向にありますが、社会において障がいへの理解が進んだことにより、障害認定を受ける人が増えたことも増加原因と考えられています。
政府によるノーマライゼーションの具体的な取り組みと施策
日本においてノーマライゼーションという概念は、1981年に定められた「国際障害者年」をきっかけにして広く認知されるようになりました。政府としては、平成8年〜14年の間に「ノーマライゼーション7カ年戦略」を掲げ、障がい者の社会的な自立やバリアフリー化などに対して具体的な施策が講じられてきました。掲げられた施策は以下の通りです。 (1) 地域で共に生活するために
・住まい(公共賃貸住宅、グループホーム 等)や働く場(授産施設等)の確保
・障害児の地域療育体制の構築
・精神障害者の社会復帰・福祉施策の充実等
・介護サービス(ホームヘルパー、入所施設等)の充実
・移動やコミュニケーション支援など社会参加の促進
・難病を有する者への介護サービスの提供 等

(2) 社会的自立を促進するために
・各段階ごとの適切な教育の充実
・法定雇用率達成のための各種雇用対策の推進
・第3セクター重度障害者雇用企業等の設置促進 等

(3) バリアフリー化を促進するために
・車いすがすれ違える幅の広い歩道の整備
・公共交通ターミナルにおけるバリアフリー化の推進
・高速道路等のSA・PA及び「道の駅」における障害者への配慮
・公共性の高い民間建築物、官庁施設のバリアフリー化の推進 等

(4) 生活の質(QOL)の向上を目指して
・福祉用具等の研究開発体制の整備
・情報通信機器等の研究開発・普及 情報提供、放送サービスの充実、スポーツ、レクリエーション振興 等

(5) 安全な暮らしを確保するために
・手話交番の設置、手話バッジの装着の推進
・ファックス110番の整備
・災害時の障害者援護マニュアルの作成・周知 等

(6) 心のバリアを取り除くために
・交流教育の推進
・ボランティア活動の振興
・精神障害者についての社会的な誤解や偏見の是正 等

(7) 我が国にふさわしい国際協力・国際交流を
・ODAにおける障害者への配慮,国際協調の推進 等

また、平成5年には「障害者基本法」という法律が制定されており、内閣府に設置された「障害者政策委員会」がノーマライゼーションの理念の元に、法整備や施策の促進等の活動を行っています。
厚生労働省の「支援費制度」をはじめとした取り組み
厚生労働省では、ノーマライゼーションの理念のもと、「障害者の自立」と「社会参加の促進」を行うため支援サービスの促進事業や制度の改訂を行っています。 平成15年には、従来の行政主導による事業者と利用者の契約が改められ、「支援費制度」がはじまりました。支援費制度では、利用者自らがサービスを選択し、事業者と対等な契約を結ぶことができます。 また、障害者のうちの約3分の1を占める精神障害者に対しては、入院時の処遇の改善や、地域生活支援に積極的に取り組んでいます。
地方自治体の取り組み−岐阜県を例に
地方自治体においても、ノーマライゼーションにおける取り組みは行われています。ここでは、岐阜県を例にとって紹介していきます。岐阜県では、障がい者及び、障がい児を対象とした障害福祉サービス提供体制の確保や質の向上を目指すために平成7年〜平成29年にかけて、下記のような取り組みを行ってきました。
・基本目標「障がいのある人もない人も安心して暮らせる「人にやさしい岐阜県」づくりを進めます」
施策Ⅰ.安心して暮らせる社会環境づくり
1.障がい者の人権尊重と心のバリアフリー推進
2.福祉を支える地域社会の構築
3.福祉のまちづくりの推進
4.身近な相談支援体制の確立
5.ぎふ清流福祉エリアの再整備
6.情報環境の整備
7.安全な暮らしの確保(防災・防犯対策)
8.福祉人材の確保と育成

施策Ⅱ.社会参加を進める支援の充実
1. 教育の充実
2. 雇用・就労の促進
3. 外出や移動の支援
4. 障がい者スポーツ、芸術文化 活動等の充実

施策III. 日常生活を支える福祉の充実
1 .障がい者の地域生活支援
2. 施設入所者への環境・サービスの質の向上
3. 所得保障制度及び経済的負担 軽減制度の活用促進

施策IV .質の高い保健・医療提供体制の整備
1 .障がいの原因となる疾病等の予 防・早期発見・治療体制の充実
2 .障がい児者に対する医療と福祉 の連携による支援の充実
3 .リハビリテーション体制の整備
●まとめ − 全ての人が地域社会で共に暮らしていくために、私たちにできること
現在、ノーマライゼーションは政府や自治体、企業、教育の現場などさまざまな場所で推進されています。ノーマライゼーションを私たちの地域で実現していくためには、地域社会に暮らす全ての人がノーマライゼーションに積極的に関わっていくことが重要となります。専門的な知識がないことで、障がいを持つ人との関わりに対して躊躇する方もいるかもしれません。しかし、障がいに対するイメージや間違った情報でコミュニケーションに踏み出せないままでは、ノーマライゼーションの実現はできません。まずは、相手に興味を持って基本的なことがらから丁寧なコミュニーケーションをとってみましょう。障害の有無に関わらず、誰でも苦手なことや得意なことがあるはずです。「相手を知りたい」と思った時から、ノーマライゼーションの一歩は進んでいきます。

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